最初に押さえるポイント

  • AIDMAは1924年提唱の古典的モデルで、認知から購買までを内面の心理プロセスとして段階化したものです。
  • AISASは検索(Search)と共有(Share)を加え、ネット時代の能動的な消費者行動を反映したモデルです。
  • どのモデルも万能ではなく、商材やチャネルの特性に合わせて選ぶか組み合わせる前提で使います。
  • モデルの段階を自社のファネルに対応づけ、各段階に施策とKPIを割り当てると実務で機能します。
  • 購買後の共有や推奨まで含めて設計すると、AISAS以降のモデルが持つ循環の効果を活かせます。

購買行動モデルとは何か、なぜ設計に使うのか

購買行動モデルは、消費者が商品やサービスを認知してから購入に至るまでの心理や行動を、いくつかの段階に分けて表したものです。AIDMAやAISASといった頭字語で知られ、それぞれの文字が認知・興味・購買といった各段階の頭文字を表します。複雑な意思決定の流れを単純化し、関係者が共通の言葉で議論するための地図として機能します。

これらのモデルが実務で重視されるのは、施策の抜け漏れを防げるからです。広告で認知を取れても、興味や比較検討を支える接点が欠けていれば購買にはつながりません。段階ごとに消費者の状態を確認すると、どこで離脱が起きているかを構造的に捉えられ、次に打つべき手の見当がつきやすくなります。

購買行動モデルは、後述するマーケティングファネルと密接に関係します。ファネルが見込み客の人数の絞り込みを縦の流れで示すのに対し、購買行動モデルは各段階で消費者の頭の中に何が起きているかを説明します。両者を重ねると、人数の変化と心理の変化を対応づけて施策を設計できます。

ただしモデルはあくまで思考の枠組みであり、すべての購買がきれいに段階を踏むわけではありません。衝動買いのように一部の段階が飛ばされる場合もあります。モデルを絶対視せず、自社の商材や顧客に合うように解釈して使う姿勢が、実務で成果を出す前提になります。

AIDMAの各段階と成り立ち

AIDMAは、消費者が広告に触れてから購買するまでの心理を5段階で表したモデルです。Attention(注意・認知)で商品の存在を知り、Interest(興味・関心)で関心を持ち、Desire(欲求)で欲しいと感じ、Memory(記憶)でその気持ちを保持し、Action(行動・購買)で実際に購入します。認知から購買までを一本の心理の流れとして捉える点が特徴です。

このモデルは1924年に、サミュエル・ローランド・ホールが著書『Retail Advertising and Selling』の中で示したとされています。さらに古いAIDA(注意・興味・欲求・行動)に、欲求と行動の間にMemory(記憶)の段階を加えたものです。広告に接した時点と実際に店頭で買う時点との間にある時間的な隔たりを、記憶の段階で橋渡しする発想が組み込まれています。

AIDMAが前提とするのは、消費者が情報を受け取る側にとどまる時代の購買です。テレビや新聞、雑誌といったマスメディアで認知を広げ、店頭で購入するという流れが想定されており、消費者が自ら能動的に情報を探す行動はモデルに含まれていません。情報の流れが企業から消費者への一方向であることが背景にあります。

実務では、AIDMAは認知から記憶までの非購買段階の長さに目を向けさせてくれる点で今も有効です。特に検討期間が長い商材や、店頭での想起が購入を左右する商材では、記憶に残す施策の重要性を整理する枠組みとして使えます。後述するAISASと比べることで、それぞれの得意な場面が見えてきます。

AISASの各段階とインターネット時代の前提

AISASは、Attention(注意・認知)、Interest(興味・関心)、Search(検索)、Action(行動・購買)、Share(共有)の5段階からなる購買行動モデルです。株式会社電通が2005年に提唱・商標登録したとされ、インターネットの普及で変化した消費者の行動を反映するために設計されました。AIDMAにあったDesireとMemoryに代わり、SearchとShareが加わっています。

最大の違いはSearch(検索)の段階です。消費者は興味を持つと、検索エンジンや口コミサイト、SNSで自ら情報を集め、複数の選択肢を比較してから購入を判断します。企業からの一方的な訴求だけでなく、消費者が能動的に調べる行動が購買の前提に組み込まれた点が、マスメディア時代のAIDMAと大きく異なります。

もう一つの特徴がShare(共有)です。購入した消費者がレビューやSNS投稿で体験を発信し、その情報が次の消費者のSearchやAttentionに影響します。購買がゴールではなく、共有を通じて次の購買へとつながる循環構造を持つのがAISASの考え方です。一人の購入者がその後の見込み客を生む点に、ネット時代の特徴が表れています。

AISASは、検索と口コミが購買を左右しやすいネット完結型の商材や、SNSでの話題化が見込める商材で特に有効です。一方で、検索や共有がほとんど発生しない商材では各段階がうまく当てはまらないこともあります。自社の購買が実際にどの段階を経ているかを観察したうえで採用するかを判断します。

AIDMAとAISASを段階ごとに比較する

両モデルは認知と興味の入口、そして購買という出口が共通しており、中間の段階が異なります。AIDMAではDesire(欲求)とMemory(記憶)という内面の心理が並ぶのに対し、AISASではSearch(検索)という能動的な行動と、購買後のShare(共有)が置かれています。心理を追うか行動を追うかという観点の差が、両者の性格を分けています。

違いの根底にあるのは情報環境です。AIDMAは情報が企業から消費者へ一方向に流れる時代を、AISASは消費者が自ら情報を探し、発信もする双方向の時代を前提にしています。同じ認知段階でも、AIDMAでは広告の到達が中心になり、AISASでは検索結果や口コミでの見え方まで含めて考える必要があります。

もう一つの重要な差は、購買後を扱うかどうかです。AIDMAは購買(Action)で完結しますが、AISASはその先のShareを起点に次の購買が生まれる循環を描きます。リピートや紹介が売上を左右する事業では、購買後の体験設計まで視野に入るAISASの構造が、施策の幅を広げてくれます。

どちらが優れているという関係ではなく、商材とチャネルによって適性が変わります。検討期間が長く店頭想起が効く商材ではAIDMAの記憶の視点が、検索と口コミが購買を動かす商材ではAISASの検索・共有の視点が活きます。両モデルの段階を並べて自社の購買にどちらが近いかを照らし合わせると、選択の判断材料になります。

AIDMAとAISASの段階対応と前提の比較

両モデルの各段階を入口・中間・出口で対応づけ、前提となる情報環境や購買後の扱いの違いを整理しています。

観点 AIDMA AISAS
提唱・年代 S.R.ホール(1924年とされる) 電通(2005年提唱・商標登録)
段階構成 注意・興味・欲求・記憶・行動 注意・興味・検索・行動・共有
中間段階の性格 欲求と記憶という内面の心理 検索という能動的な情報収集行動
情報の流れ 企業から消費者への一方向 消費者が探し発信する双方向
購買後の扱い 購買(行動)で完結 共有が次の購買を生む循環
適性が高い場面 検討期間が長く店頭想起が効く商材 検索・口コミが購買を動かす商材

SIPSなど派生モデルと選び方

AISAS以降も、メディア環境の変化に合わせて多くの派生モデルが提唱されています。代表例がSIPSで、電通のコミュニケーション・デザイン・センター内のユニットが2011年に発表した、ソーシャルメディア時代を想定したモデルです。Sympathize(共感)、Identify(確認)、Participate(参加)、Share & Spread(共有・拡散)の4段階で構成されます。

SIPSは、認知ではなく共感を起点に置く点が特徴です。SNS上で流れてきた情報に共感し、それが自分にとって価値があるかを確認し、購入に限らず「いいね」や拡散といった形で参加し、その行動がさらに広がっていく流れを描きます。必ずしも購買を最終ゴールに置かず、関与や拡散そのものを成果と捉える発想が含まれています。

このほかにも、ザ・モデルやパルス型消費など、業態や商材に応じた捉え方が提唱されています。重要なのは新しいモデルを追いかけること自体ではなく、自社の消費者が実際にどのような経路をたどっているかを観察し、それに最も近い枠組みを選ぶことです。流行のモデルが自社に当てはまるとは限りません。

選び方の基準は、検索が購買に効くか、口コミや共感がどれだけ売上を動かすか、検討期間がどの程度かといった自社の購買の実態です。複数のモデルの要素を組み合わせて、自社専用の段階定義をつくっても構いません。モデルは出発点であり、自社の文脈に合わせて編集する対象だと位置づけます。

購買行動モデルをファネルに対応づける

購買行動モデルを設計に活かす第一歩は、各段階を自社のマーケティングファネルに対応づけることです。一般にファネルはTOFU(認知)、MOFU(検討)、BOFU(購買)の3層で語られます。AISASであれば、AttentionとInterestがTOFU、SearchがMOFU、ActionがBOFU、Shareが購買後の段階に位置づけられます。

対応づけができたら、各段階で消費者がどの接点に触れ、どんな情報を求めているかを書き出します。たとえばSearchの段階では、検索結果での自社の表示、比較サイトでの評価、口コミの内容が判断材料になります。ここに適切なコンテンツや情報が用意されていなければ、興味を持った見込み客も比較の途中で離脱します。

段階ごとに離脱の原因を特定すると、改善すべき箇所が絞り込まれます。認知は取れているのに検索段階で他社に流れているなら、検索接点での情報整備に課題があります。逆に検索後の購買率が低いなら、商品ページや申込導線に問題がある可能性が高く、施策の優先順位を判断できます。

ファネルへの対応づけは一度で完成させる必要はありません。アクセス解析や顧客アンケートで実際の経路を確認しながら、段階の区切りや接点の想定を更新していきます。モデルとファネルを重ねた図を社内で共有すると、部門をまたいだ施策の議論がかみ合いやすくなります。

AISASの段階とファネル・施策・KPIの対応例

AISASの各段階をファネルの層に対応づけ、代表的な施策と確認すべき指標の例を整理した実務向けの一覧です。

AISASの段階 ファネルの層 代表的な施策 確認する指標
Attention(認知) TOFU 広告・SNS発信・SEO記事 リーチ・表示回数・新規訪問数
Interest(興味) TOFU 事例記事・動画・メルマガ登録 滞在時間・回遊率・登録数
Search(検索) MOFU 比較コンテンツ・口コミ整備・指名検索対策 指名検索数・比較ページ閲覧数
Action(購買) BOFU 商品ページ最適化・申込導線改善 CVR・申込数・カゴ落ち率
Share(共有) 購買後 レビュー促進・SNS投稿企画・紹介特典 口コミ件数・指名検索の増加・紹介数

各段階に施策とKPIを割り当てる

ファネルへの対応づけができたら、各段階に具体的な施策と評価指標(KPI)を割り当てます。施策は段階の目的に沿って選びます。認知段階なら到達を広げる広告やSNS発信、検索段階なら比較検討を後押しするコンテンツ、購買段階なら申込導線の改善というように、段階ごとに役割の異なる施策を配置します。

施策には必ず指標を紐づけます。認知段階はリーチや表示回数、興味段階は滞在時間や登録数、検索段階は指名検索数や比較ページの閲覧、購買段階はCVRや申込数といった具合です。段階ごとに指標を分けて見ると、全体のコンバージョン率という一つの数字では見えない、どこが弱点かが明確になります。

指標を段階別に追うと、改善のインパクトが大きい箇所を特定できます。認知の指標は高いのに購買が伸びないなら、中間段階に問題があると分かり、そこへ資源を集中できます。すべての段階に均等に手をかけるのではなく、ボトルネックになっている段階を見極めて優先することが、限られた予算を活かす鍵です。

AISASを採用する場合は、購買後のShareにも指標を置くことが重要です。レビュー件数や指名検索の増加、紹介経由の流入を測ると、購買後の体験が次の認知や検索にどれだけ貢献しているかが見えます。共有を成果として可視化すると、購入後の顧客接点への投資判断がしやすくなります。

運用でよくあるつまずきと回避のコツ

よくあるつまずきの一つが、モデルを当てはめること自体を目的にしてしまうことです。AISASが流行しているからと採用しても、検索や共有がほとんど発生しない商材では段階がかみ合いません。先に自社の購買がどんな経路をたどっているかを観察し、それに合うモデルを選ぶ順序を守る必要があります。

次に多いのが、認知や興味といった上流段階の施策に偏り、検索や購買、共有といった下流が手薄になることです。上流で集めた見込み客も、中間以降の接点が整っていなければ取りこぼします。段階ごとの指標を並べて見て、特定の段階に施策が集中していないかを定期的に点検すると偏りを防げます。

段階の区切りを固定したまま運用し続けることも、ずれを生む原因です。消費者の情報行動は変化し続けるため、検索の中身がSNS検索に移ったり、共有の主戦場が変わったりします。アクセス解析や顧客アンケートで実際の経路を定期的に確認し、段階の定義や接点の想定を更新していく姿勢が欠かせません。

最後に、モデルを部門間の共通言語として活かしきれていないケースも見られます。各段階の定義と担当、指標を一枚にまとめて共有すると、広告・コンテンツ・営業がそれぞれどの段階を担うかが明確になります。モデルは個人の分析ツールにとどめず、組織でファネルを設計し運用するための土台として使うと効果が高まります。

実務で確認するチェックリスト

  • 自社の購買が実際にたどる経路を観察し、AIDMA・AISAS・SIPS等から合うモデルを選んだ
  • 選んだモデルの各段階を、TOFU・MOFU・BOFUなど自社のファネルに対応づけた
  • 各段階で消費者が触れる接点と求める情報を書き出し、不足を洗い出した
  • 段階ごとに役割の異なる施策を割り当て、上流偏重になっていないか点検した
  • 各段階にKPIを紐づけ、全体のCVRだけでなく段階別の数値を追える状態にした
  • 離脱が大きい段階を特定し、改善インパクトの高いボトルネックに優先して取り組んだ
  • 購買後の共有・推奨にも指標を置き、段階定義を定期的に見直す運用を決めた

よくある質問

AIDMAとAISASとは何ですか?

どちらも消費者が商品を認知してから購買に至るまでの行動を段階で表した購買行動モデルです。AIDMAは注意・興味・欲求・記憶・行動の5段階で、1924年に示された古典的なモデルとされます。AISASは注意・興味・検索・行動・共有の5段階で、電通が2005年に提唱した、インターネット時代の消費者行動を反映したモデルです。

AIDMAとAISASの一番の違いは何ですか?

中間と出口の段階の違いです。AIDMAは欲求・記憶という内面の心理を扱い購買で完結しますが、AISASは検索という能動的な情報収集と、購買後の共有を含みます。背景には、情報が企業から一方向に流れる時代と、消費者が自ら調べ発信する双方向の時代という情報環境の違いがあります。

AIDMAとAISASのどちらを使えばよいですか?

商材とチャネルによって適性が変わるため、自社の購買の実態に近いほうを選びます。検討期間が長く店頭での想起が効く商材ではAIDMAの記憶の視点が、検索や口コミが購買を大きく動かす商材ではAISASの検索・共有の視点が活きます。両方の要素を組み合わせて自社専用の段階定義をつくっても問題ありません。

AISASのSearchとShareは具体的に何を指しますか?

Searchは、消費者が興味を持った後に検索エンジンや口コミサイト、SNSで自ら情報を集め、複数の選択肢を比較する行動です。Shareは、購入した消費者がレビューやSNS投稿で体験を発信する行動を指します。Shareによる情報が次の消費者の検索や認知に影響し、購買が次の購買につながる循環を生みます。

SIPSはAISASとどう違いますか?

SIPSは電通の内部ユニットが2011年に発表した、ソーシャルメディア時代を想定したモデルです。認知ではなく共感(Sympathize)を起点に置き、確認・参加・共有拡散と進みます。必ずしも購買を最終ゴールとせず、いいねや拡散といった関与そのものを成果として捉える点が、購買を出口に置くAISASと異なります。

購買行動モデルとマーケティングファネルはどう関係しますか?

ファネルは見込み客の人数が認知から購買へ絞り込まれる流れを示し、購買行動モデルは各段階で消費者の頭の中に何が起きているかを説明します。両者を重ねると、人数の変化と心理の変化を対応づけられます。モデルの段階をTOFU・MOFU・BOFUに割り当てると、施策とKPIを設計しやすくなります。

購買行動モデルを使う際の注意点はありますか?

モデルを当てはめること自体を目的にしないことが重要です。すべての購買がきれいに段階を踏むわけではなく、商材によっては一部の段階が省かれます。先に自社の購買経路を観察してから合うモデルを選び、消費者の情報行動の変化に合わせて段階の定義を定期的に見直す姿勢が求められます。

各段階にKPIを設定するメリットは何ですか?

段階別に指標を分けて追うと、全体のコンバージョン率という一つの数字では見えない弱点が特定できます。認知は取れているのに検索段階で離脱しているといった構造が見え、改善インパクトの大きいボトルネックに資源を集中できます。すべての段階に均等に手をかけるより、優先順位をつけられる点が大きな利点です。