最初に押さえるポイント
- 施行2年でステマ告示の措置命令は国5件・東京都1件の計6件。確約手続でも3件が認定され、執行は静かに積み上がっている
- 違反は二類型に集約。Googleマップ等での高評価口コミ依頼と、依頼済みSNS投稿の自社サイトへの無表示転載が摘発の中心
- ロート製薬・RIZAP・大正製薬と大手の摘発が続き、規制対象は広告主のみ。インフルエンサー本人ではなく依頼した事業者が責任を負う
- 投稿元にPR表記があっても、自社サイトに抜粋転載した時点で表記が外れれば違反になりうる点が実務上の盲点
- 2024年10月施行の確約手続により、措置命令を待たず自発的に是正する経路が制度化された
施行2年、措置命令はステマ告示で6件に積み上がった
ステルスマーケティング規制が景品表示法第5条第3号の指定告示として施行されたのは2023年10月1日である。広告であるにもかかわらず一般消費者が広告と判別できない表示を不当表示とする仕組みで、規制対象は広告主たる事業者に限られ、依頼を受けたインフルエンサー本人は対象外とされた。
施行から2年が経過し、消費者庁による執行は静かに積み上がってきた。ステマ告示に基づく措置命令は国が5件、これに東京都による1件を加えると計6件に達する。加えて、2024年10月に新設された確約手続でも3件が認定され、措置命令と合わせれば計9件の事案が公になっている。
件数だけを見れば派手な摘発ラッシュとは言いがたい。しかし対象企業の顔ぶれは軽視できない。RIZAPが運営する「chocoZAP」、大正製薬のサプリメント、そしてロート製薬と、知名度の高い事業者が並ぶ。規制が一部の悪質業者に限った話ではないことを示している。
本稿は、この2年間の執行データを手がかりに、インフルエンサーPRと自社サイト運用の現場で何が変わったのかを、事業会社のマーケティング担当の視点から読み解く。
施行2年間の執行サマリー(ステマ告示関連)
ステマ告示に基づく措置命令と確約手続の累計。国・東京都の合算ベース。
| 区分 | 件数 | 起点となる制度 | 施行・新設 |
|---|---|---|---|
| 措置命令(国) | 5件 | 景表法第5条第3号 ステマ告示 | 2023年10月1日 |
| 措置命令(東京都) | 1件 | 同上(都による執行) | 2023年10月1日 |
| 確約手続の認定 | 3件 | 改正景表法 確約手続 | 2024年10月1日 |
| 公表事案 合計 | 9件 | 措置命令+確約 | 施行2年時点 |
なぜ規制が生まれたのか──広告であることを隠す構造への対処
規制の背景には、SNSとインフルエンサーの普及によって、広告と消費者の自発的な感想との境界が曖昧になった事情がある。企業が報酬や商品提供と引き換えに投稿を依頼しても、その事実が伏せられれば、消費者は中立的な第三者の評価と誤認してしまう。この情報の非対称性こそが規制の狙いどころとされた。
重要なのは、規制が対象とするのが広告の「内容の真偽」ではなく「広告であることの開示」である点だ。商品の効能に誇張がなくても、依頼に基づく投稿であることを隠せばステマ告示違反となりうる。優良誤認とは独立した、表示の出所に関する規律である。
対象が広告主のみに限定された設計も、この趣旨から導かれる。表示内容を決定できる立場にあるのは依頼主の事業者であり、責任の所在をそこに置く判断だ。インフルエンサー側に法的処分が及ばない以上、依頼する企業が運用ルールを管理する責務を負う構図になっている。
つまりステマ規制は、広告表現の巧拙ではなく、広告であるという事実を消費者に正しく伝える体制を企業に求めるものだといえる。摘発事例の多くが、この開示の不備に起因している。
データを読む──違反は二つの類型に集約されている
2年間の事案を並べると、違反の手口は大きく二類型に収れんしていることが見えてくる。第一が、Googleマップなどプラットフォーム上の口コミ欄に高評価の投稿を依頼する類型である。来院や来店の特典と引き換えに星評価を投稿させるケースが典型で、医療法人による事案がこれに該当する。
第二が、企業が依頼・タイアップしたSNS投稿を、自社の公式サイトに抜粋転載する類型だ。RIZAPの「chocoZAP」、大正製薬、ロート製薬の各事案がこれにあたる。施行2年時点で公表された事案の多くがこの転載型に分類され、執行の中心軸を成している。
この第二類型には実務上の盲点がある。インフルエンサーの投稿元にはPR表記があっても、自社サイトへ画像を抜粋して掲載した時点でその表記が抜け落ち、あたかも利用者の自発的な声であるかのように見えてしまうケースだ。ロート製薬の事案はまさにこの構図で、Instagram側にはPR表記があったとされる。
二類型への集約は、裏を返せば対策すべき箇所が明確だということでもある。口コミの依頼方法と、自社チャネルへの転載運用。この二点に管理の網をかければ、摘発リスクの大半はカバーできる計算になる。
主な措置命令事案(ステマ告示関連・抜粋)
施行後に公表された代表的な事案。日付は措置命令の公表日ベース。
| 公表日 | 事業者 | 違反類型 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2024年8月8日 | RIZAP(chocoZAP) | 自社サイトへのSNS投稿転載 | ステマ告示2例目・優良誤認も併発 |
| 2024年11月13日 | 大正製薬 | 自社サイトへのSNS投稿転載 | サプリメントの表示 |
| 2025年3月25日 | ロート製薬 | 自社サイトへのSNS投稿転載 | モニター募集経由・投稿元にはPR表記 |
| (複数) | 医療法人ほか | Googleマップ等への口コミ依頼 | 特典付与と引き換えに高評価投稿 |
確約手続の新設が変えた是正のかたち
2024年10月1日、改正景品表示法に基づく確約手続が施行された。違反の疑いを指摘された事業者が、行政処分を受ける前に自ら是正計画を申請し、認定されれば措置命令や課徴金を回避できる制度である。施行から1年弱の間に、ステマ告示関連でも3件が認定されている。
この制度がもたらす変化は、執行の経路が「措置命令一本」から「自発的是正」へと広がったことだ。事業者にとっては、疑いの段階で迅速に是正へ動けば、企業名の公表を伴う処分を避けうる余地が生まれた。コンプライアンス対応のインセンティブ設計が変わったといえる。
もっとも、確約手続は違反疑いの解消を保証する万能の逃げ道ではない。是正措置や影響回復の具体的内容を計画に盛り込み、確実に実行する必要がある。ステマ告示の疑いに係る計画では返金措置が必須とされない一方、優良誤認等が絡む場合は返金を含む対応が求められる傾向にある点に留意が要る。
確約手続の積み上がりは、規制当局が処分一辺倒ではなく、企業の自主的な改善を促す方向へ運用の幅を広げている兆候とも読める。事業者側も、指摘を受けてから慌てるのではなく、平時から是正計画を描ける体制を持つ意味が増している。
措置命令と確約手続の比較
ステマ告示違反疑いに対する二つの執行経路の概略。制度趣旨の違いを整理。
| 観点 | 措置命令 | 確約手続 |
|---|---|---|
| 起点 | 当局による違反認定 | 事業者の自発的申請 |
| 企業名の公表 | 原則あり | 認定計画として公表される |
| 返金措置 | 事案により命令 | ステマ告示単独では必須でない傾向 |
| 施行 | 2023年10月1日 | 2024年10月1日 |
実務への示唆──PR運用のどこに網をかけるか
二類型への集約を踏まえれば、事業会社が優先的に管理すべき領域ははっきりしている。第一に、インフルエンサーや既存顧客に投稿を依頼する際の、報酬・特典と投稿の関係の開示だ。星評価や口コミを特典と引き換えに求める運用は、開示なしでは類型Ⅰの典型として摘発対象になる。
第二に、依頼済み投稿を自社サイトや広告に二次利用する際の表記管理である。投稿元にPR表記があるからと安心せず、転載先で広告であることが明示されているかを個別に確認する必要がある。ロート製薬の事案が示すのは、まさにこの転載時の表記欠落のリスクだ。
組織面では、PR施策の意思決定者とサイト運用の担当者が分かれている場合に盲点が生じやすい。マーケティング部門が依頼した投稿を、別部署がコンテンツとして転載する過程で表記が抜けるパターンである。部門をまたいだチェックの仕組みが要となる。
あわせて、確約手続の存在を前提とした有事対応の設計も検討に値する。疑いを指摘された際にどの範囲を是正し、どう影響回復を図るかをあらかじめ描いておけば、処分回避の選択肢を確保しやすい。平時のルール整備と有事の是正計画は、いわば車の両輪である。
まとめと展望──静かに標準化する開示規律
ステマ規制の2年間は、劇的な摘発ラッシュというより、二類型に沿った執行の着実な積み上がりとして総括できる。措置命令6件と確約手続3件という数字は、規制が運用フェーズに入り、事業者の行動を実際に規律し始めたことを物語る。
大手企業の摘発が続いたことの意味は大きい。ステマが意図的な悪質行為だけでなく、依頼投稿の転載という日常的なマーケティング運用の延長で起こりうると示したからだ。担当者の善意や認識不足が、そのまま違反につながる構造への注意が要る。
確約手続の定着により、今後は処分前の自発的是正がさらに広がる可能性がある。執行データは、当局が企業の自浄作用を引き出す方向へ運用を調整している様子をうかがわせる。事業者にとっては、開示を前提とした運用が競争上の標準になりつつある局面だ。
PRの何が変わったか。それは表現の自由度が狭まったというより、広告であることを正しく伝える開示が、施策設計の初期段階から組み込むべき要件になったことだと整理できる。この規律を内製化できるかどうかが、これからのブランド運用の分かれ目になる。
実務で確認するチェックリスト
- インフルエンサーや顧客への投稿依頼で、報酬・特典と投稿の関係を開示しているか確認する
- Googleマップ等の口コミ欄への高評価投稿を、特典と引き換えに依頼していないか点検する
- 依頼済みSNS投稿を自社サイトや広告へ転載する際、転載先でPR・広告表記が保持されているか確認する
- 投稿元のPR表記に依存せず、二次利用先ごとに広告である旨の明示を個別チェックする
- PR施策の意思決定者とサイト運用担当の間で、表記管理の責任分界とチェック体制を定める
- 確約手続を前提に、違反疑いを指摘された際の是正・影響回復の手順をあらかじめ設計しておく
- モニター募集やキャンペーン経由の投稿について、依頼関係の記録と開示状況を保管する
よくある質問
ステマ規制で処分されるのは、依頼を受けたインフルエンサーですか、それとも依頼した企業ですか。
規制対象は広告主である事業者のみです。依頼を受けて投稿したインフルエンサー本人は景品表示法上の処分対象になりません。表示内容を決定できる立場にある依頼主の企業が責任を負う設計であり、運用ルールの管理責任も企業側にあります。
投稿元にPR表記があれば、自社サイトに転載しても問題ないのですか。
そうとは限りません。施行2年で多い違反類型は、PR表記のある投稿を自社サイトに抜粋転載した際に表記が抜け落ち、利用者の自発的な声のように見えてしまうケースです。転載先で広告である旨が明示されているかを、二次利用のたびに個別に確認する必要があります。
確約手続を使えば、ステマ違反の疑いがあっても処分を避けられますか。
2024年10月施行の確約手続では、是正計画が認定されれば措置命令や課徴金を回避しうる経路が制度化されました。ただし是正措置や影響回復の内容を計画に盛り込み確実に実行する必要があり、自動的に免責される万能の手段ではありません。平時からの体制整備が前提になります。