最初に押さえるポイント
- 2025年の国内リテールメディア広告市場は6,066億円、前年比129%で、2029年に1兆3,174億円が予測される
- 市場の86%はEC事業者(5,236億円)で、店舗事業者は830億円と小さいが伸び率では先行している
- 電通統計の物販系EC広告費2,172億円とCARTAの6,066億円は定義範囲が異なり、単純比較はできない
- 店舗事業者領域はデジタル広告620億円とサイネージ210億円に分かれ、店舗DXが収益化を後押ししている
- 数字の出所と定義を確認しないと、予算配分や投資判断の前提を誤りやすい
6,066億円という数字──2025年に何が起きたか
CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトが2026年1月に公表した調査によれば、2025年の国内リテールメディア広告市場は前年比129%の6,066億円に達した。広告主が小売・EC事業者の媒体に投じた支出総額をもとにした推計値である。
内訳はEC事業者が5,236億円、店舗事業者が830億円。市場の約86%をEC事業者が占め、Amazonや楽天など大手プラットフォームの広告枠が成長の中核を担っている構図が読み取れる。
成長率も鈍化していない。2023年の前年比122%、2024年の125%に対し、2025年は129%へと加速した。デジタル広告全体が概ね一桁台後半の伸びにとどまるなか、相対的に高い成長が続いている領域だといえる。
そして2029年には2025年比約2.2倍の1兆3,174億円へ拡大すると予測されている。インターネット広告という成熟しつつある市場の中で、なお二桁成長の余地があると見込まれる数少ない区分のひとつである。
国内リテールメディア広告市場の推移と予測
CARTA HOLDINGS/デジタルインファクト調査による市場規模。2025年までは推計、2029年は予測値。
| 年 | 市場規模 | 前年比/備考 |
|---|---|---|
| 2023年 | 3,625億円 | 前年比122% |
| 2024年 | 4,692億円 | 前年比125% |
| 2025年 | 6,066億円 | 前年比129% |
| 2029年(予測) | 1兆3,174億円 | 2025年比約2.2倍 |
なぜ伸びるのか──ECの広告枠と店舗のデータ資産
成長を牽引する第一の要因は、大手EC事業者によるフルファネル戦略である。商品検索の結果画面や購入導線に広告を組み込めるため、購買に近い文脈で広告を出せる点が広告主の支持を集めている。
第二に、店舗を持つ小売事業者のDX進展がある。会員データやID-POSといったデータ資産を収益機会へ転換する動きが進み、自社アプリやサイネージを媒体化する取り組みが広がってきた。
背景にはサードパーティCookie規制をめぐる環境変化もある。外部のトラッキングに依存しにくくなるなかで、小売が持つ一次データ(購買履歴)の価値が相対的に高まったことが、媒体化を後押ししている。
ただし、これらの要因は均質に効いているわけではない。EC事業者では広告枠の在庫拡大が、店舗事業者ではデータ整備とサイネージ投資が、それぞれ別の律速要因となっている点は分けて捉えたい。
EC偏重の市場構造──伸び率と規模を分けて見る
市場全体は6,066億円だが、その内実はEC事業者(5,236億円)と店舗事業者(830億円)で大きく性格が異なる。規模ではECが圧倒的だが、伸び率では店舗事業者が先行する局面が続いてきた。
店舗事業者の830億円はさらに、デジタル広告620億円とデジタルサイネージ210億円に分かれる。2023年の店舗事業者領域が220億円(うちサイネージ90億円)だったことを踏まえると、わずか2年で約3.8倍に拡大した計算になる。
予測でも、店舗事業者領域は2029年に2025年比約2.3倍の1,939億円へ伸びると見込まれている。市場全体の2.2倍とほぼ同水準だが、相対的に小さい基盤からの拡大である点は留意したい。
つまり「リテールメディアが伸びている」という一文の中には、規模を支えるEC事業者と、成長の物語を担う店舗事業者という二つの異なる動きが同居している。どちらを指して語るかで、示唆はまったく変わってくる。
2025年の事業者区分別内訳
EC事業者と店舗事業者の規模、および店舗事業者領域の内訳。CARTA HOLDINGS/デジタルインファクト調査。
| 区分 | 2025年 | 2029年(予測) |
|---|---|---|
| EC事業者 | 5,236億円 | ─ |
| 店舗事業者(計) | 830億円 | 1,939億円 |
| └ デジタル広告 | 620億円 | ─ |
| └ デジタルサイネージ | 210億円 | ─ |
| 市場全体 | 6,066億円 | 1兆3,174億円 |
統計で見えにくい正体──6,066億円と2,172億円のあいだ
ここで一つの論点が立ち上がる。電通「2024年 日本の広告費」では、リテールメディアに近い区分である物販系ECプラットフォーム広告費は2,172億円(前年比103.4%)とされている。CARTAの数字とは桁感が大きく異なる。
ズレの主因は定義の範囲にある。電通の物販系ECプラットフォーム広告費は「ECプラットフォーム上に店舗を持つ事業者が、当該プラットフォーム上に投下した広告費」に限定され、小売自社媒体や店頭サイネージは含まれない。
一方でCARTAの調査は、EC事業者の媒体に加え、店舗事業者のデジタル広告やデジタルサイネージまで含む広い定義で市場を捉えている。つまり両者は別の輪郭で同じ領域を測っており、本来は単純比較できない。
この差は、リテールメディアという市場が統計上いまだ確立しきっていないことの裏返しでもある。テレビや新聞のように一つの定義が共有されておらず、調査主体ごとに見える範囲が異なる。
実務上の教訓は明快だ。リテールメディアの市場規模を引用する際は、必ず出所と定義をセットで確認する。数字だけを切り出すと、対象範囲の異なる値を取り違え、議論の前提を崩しかねない。
調査主体による「市場規模」の違い(参考)
定義範囲が異なるため単純比較はできない。年や対象も異なる点に注意。
| 調査・区分 | 金額 | 対象範囲の特徴 |
|---|---|---|
| CARTA リテールメディア広告市場 2025年 | 6,066億円 | EC媒体+店舗のデジタル広告・サイネージを含む |
| 電通 物販系ECプラットフォーム広告費 2024年 | 2,172億円 | EC上に出店する事業者がEC上に投下した広告費に限定 |
| 電通 インターネット広告費 2024年 | 3兆6,517億円 | ネット広告全体(参考) |
事業会社はどう動くか──規模に飲まれず立て付けを問う
広告主側のマーケ担当にとって、まず問うべきは「どのリテールメディアか」である。大手ECの広告枠は購買直結だが入札競争も激しい。費用対効果は媒体ごとに大きくばらつくため、市場全体の成長率を自社の期待値に流用するのは危うい。
小売・メーカー側で自社の媒体化を検討する場合は、830億円という店舗事業者市場の小ささを直視したい。媒体収益が本格化する前に、データ整備やサイネージへの先行投資が必要になる。回収期間を保守的に見積もる姿勢が要る。
効果測定の設計も論点だ。リテールメディアの強みは購買データと広告接触を突き合わせられる点にあるが、それは小売側のデータ提供範囲に依存する。契約段階で測定可能な指標と粒度を確認しておきたい。
予測値の扱いにも注意がいる。2029年の1兆3,174億円はあくまで一調査主体の前提に基づく推計であり、景気や消費者の節約志向、店舗回帰などの変動要因を含む。投資計画では複数シナリオを置くのが現実的だ。
まとめ──数字の輪郭を持つ者が議論を制す
2025年に6,066億円へ達し、2029年に1兆3,174億円が見込まれるリテールメディアは、ネット広告の中でも数少ない高成長領域である。これは事実として押さえてよい。
ただしその数字は、EC事業者という巨大な基盤と、店舗事業者という小さくも速い新領域の合算であり、さらに調査主体によって輪郭が大きく変わる。一つの数字を額面どおりに扱うと実像を見誤る。
事業会社に求められるのは、市場の勢いに乗ることと同じくらい、引用する数字の定義を見極める姿勢である。出所と対象範囲を確認したうえで、自社の文脈に置き直して判断したい。
見えにくい市場ほど、定義を制した者が議論の前提を握る。リテールメディアはまさにその段階にあり、数字の輪郭を持つことが当面の競争優位につながる。
実務で確認するチェックリスト
- 引用するリテールメディアの市場規模について、調査主体と定義範囲(EC媒体・店舗・サイネージの含む/含まない)を確認したか
- 自社が対象とするのはEC事業者の広告枠か、店舗事業者の自社媒体かを切り分けて検討したか
- 市場全体の成長率を自社案件の期待値に安易に流用していないか
- 自社媒体化を検討する場合、データ整備・サイネージへの先行投資と回収期間を保守的に見積もったか
- 効果測定で必要な購買データの提供範囲・指標・粒度を契約段階で確認したか
- 2029年予測などの将来値を、単一前提でなく複数シナリオで扱っているか
- 電通統計とCARTA調査など、定義の異なる数字を混同して比較していないか
よくある質問
リテールメディア広告市場の2025年の規模と将来予測は
CARTA HOLDINGSとデジタルインファクトの2026年1月公表の調査では、2025年は前年比129%の6,066億円で、内訳はEC事業者5,236億円、店舗事業者830億円です。2029年には2025年比約2.2倍の1兆3,174億円に拡大すると予測されています。
なぜ電通の数字(2,172億円)と大きく違うのか
定義の範囲が異なるためです。電通の物販系ECプラットフォーム広告費はEC上に出店する事業者がEC上に投下した広告費に限定され、小売自社媒体や店頭サイネージを含みません。CARTAの調査はそれらを含む広い定義のため、金額の桁が大きく変わります。単純比較はできません。
店舗事業者のリテールメディアはどの程度の規模か
2025年の店舗事業者領域は830億円で、内訳はデジタル広告620億円、デジタルサイネージ210億円です。市場全体に占める割合は小さいものの、2023年の220億円から約3.8倍に伸びており、2029年には1,939億円(2025年比約2.3倍)が予測される成長領域です。
事業会社が市場規模の数字を使う際の注意点は
数字を引用する際は出所と定義を必ずセットで確認することです。リテールメディアは統計上の定義が確立しておらず、調査主体ごとに対象範囲が異なります。また将来予測は単一前提の推計のため、複数シナリオで扱い、自社の費用対効果は市場の成長率と切り離して個別に検証することが望ましいです。