最初に押さえるポイント

  • 2024年のBtoC-EC市場は26兆1225億円で前年比5.1%増。市場は拡大を続けるが伸び率自体は前年の9.23%増から鈍化した
  • 成長の主役は物販系(+3.7%)ではなくサービス系(+9.43%)。旅行サービスは3兆5249億円で約10%増と全体を牽引した
  • 物販のEC化率は9.78%にとどまり、衣類23.38%・生活家電43.03%など主要カテゴリの伸びしろが縮小している
  • サービス系はコロナ禍で落ち込んだ旅行・チケット予約の回復に加え、オンライン完結型の購買行動の定着が押し上げ要因
  • 事業会社のマーケ担当は、モノ単体の販売だけでなく予約・サブスク・体験などサービス的価値の設計が成長余地になる

26兆円台に乗った市場、しかし伸び率は鈍化していた

経済産業省が2025年8月26日に公表した「令和6年度電子商取引に関する市場調査」によると、2024年の日本のBtoC-EC市場規模は26兆1225億円となり、前年の24兆8435億円から1兆2790億円増、前年比5.1%増だった。市場は一貫して拡大を続けている。

ただし伸び率の推移を並べると別の表情が見える。2021年は前年比7.35%増、2022年は9.91%増、2023年は9.23%増と高い成長を維持してきたが、2024年は5.1%増へと一段下がった。規模の拡大と成長速度の鈍化が同時に進んでいる。

額の大きさだけを見れば「EC市場は堅調」と総括できる。しかし伸びが鈍る局面では、市場のどこが牽引役で、どこが頭打ちになりつつあるのかという内訳の理解が、事業判断の精度を左右する。全体平均の5.1%という数字だけを根拠に施策を組むと、実際の成長ポケットを取りこぼしかねない。

本稿では市場を物販系・サービス系・デジタル系の3分野に分解し、成長エンジンが「モノ」から「サービス」へ移りつつある構造を、経産省調査の数値に沿って読み解く。事業会社のマーケ担当が、自社はどの領域に投資の重心を置くべきかを考えるための材料を、本コラムを通じて提示したい。

BtoC-EC市場規模と前年比成長率の推移

経済産業省「電子商取引に関する市場調査」に基づく、近年のBtoC-EC市場全体(物販系・サービス系・デジタル系の合計)の推移。

市場規模 前年比
2021年 約20.7兆円 +7.35%
2022年 22兆7449億円 +9.91%
2023年 24兆8435億円 +9.23%
2024年 26兆1225億円 +5.1%

3分野に分解すると、伸びの主役が入れ替わっている

2024年のBtoC-ECを物販系・サービス系・デジタル系の3分野に分けると、伸び率の差が際立つ。物販系は15兆2194億円で前年比3.7%増、デジタル系は2兆6776億円で1.02%増にとどまり、いずれも市場全体の伸び率5.1%を下回った。規模の大きい物販系の鈍化が、全体の伸び率低下の主因でもある。

対してサービス系は8兆2256億円で前年比9.43%増と、物販系の倍以上の速度で拡大した。市場全体の伸び率5.1%を大きく上回っており、26兆円市場の成長を実質的に牽引したのはサービス系だったことが、この数字の対比からはっきりと読み取れる。物販の鈍化をサービスの伸びが補った構図である。

規模で見れば物販系が全体の約58%を占め依然として最大であり、市場の土台を担う存在であることは変わらない。だが成長の勢いという観点では位置づけが変わる。市場の量を支えるのが物販、伸びを生み出すのがサービス、という役割分担が2024年の数字では明確になってきた。

デジタル系(オンラインゲーム、電子書籍、有料動画配信など)は1.02%増と3分野で最も伸びが小さかった。スマホ普及期に急拡大したコンテンツ消費のオンライン化が一巡し、この領域も物販と同様に成熟の局面に入りつつあると読める。デジタルとモノが横ばいに近づくなか、伸びの源泉はやはりサービスに偏っている。

2024年 分野別BtoC-EC市場規模と成長率

物販系・サービス系・デジタル系の3分野別の市場規模と前年比成長率。サービス系の伸びが突出している。

分野 市場規模 前年比 主な内容
物販系 15兆2194億円 +3.70% 食品・衣類・家電など
サービス系 8兆2256億円 +9.43% 旅行・チケット・金融など
デジタル系 2兆6776億円 +1.02% ゲーム・電子書籍・動画配信
合計 26兆1225億円 +5.1% BtoC-EC全体

サービス系を押し上げたのは旅行の回復だった

サービス系の中で最大かつ最も伸びたのが旅行サービスである。2024年の旅行サービスのEC市場規模は3兆5249億円で、前年比10.32%増と二桁成長を記録した。サービス系8兆2256億円のうち4割超を旅行が占めており、この分野の成長は事実上、旅行が牽引したと言ってよい。

背景にはコロナ禍で大きく落ち込んだ旅行需要の回復がある。航空券・宿泊・パッケージツアーの予約はもともとオンライン化が進んでいた領域であり、需要そのものが戻る局面では、店舗回帰ではなくEC市場の数字へ直接反映されやすいという特性がある。回復した需要の受け皿が、最初からオンラインに整っていたわけだ。

旅行に加え、金融サービスが9890億円で前年比16.59%増と一段と高い伸びを示した点も見逃せない。オンライン証券口座やネット保険など、店舗窓口を介さない金融取引の定着が市場を押し上げており、伸び率だけを見れば旅行を上回る勢いを示している点は注目に値する。

つまりサービス系の成長は単なる反動ではなく、予約・契約・取引といった「手続き型の消費」がオンラインへ移る不可逆的な流れの上に乗っている。物販のように在庫や物流、配送コストの制約を受けにくい分、サービス系には今後も伸びしろが残されていると考えられる。

サービス系BtoC-ECの主な内訳(2024年)

サービス系8兆2256億円のうち、市場規模が大きく成長率も高い旅行・金融などの主要項目。

項目 市場規模 前年比
旅行サービス 3兆5249億円 +10.32%
金融サービス 9890億円 +16.59%
サービス系合計 8兆2256億円 +9.43%

物販系が鈍化した理由──EC化率という天井

物販系が3.7%増にとどまった理由を読み解く鍵が、EC化率(商取引全体に占めるECの割合)である。物販系全体のEC化率は9.78%で、前年から0.40ポイントの上昇にとどまった。一桁台の伸びが続くということは、リアル店舗からECへの置き換えが緩やかなペースに落ち着きつつあることを意味する。

カテゴリ別に見ると差は大きい。書籍・映像・音楽ソフトは56.45%、生活家電・AV機器・PC周辺機器は43.03%、衣類・服装雑貨等は23.38%と、オンライン親和性の高い領域ではすでにEC化が相当進んでいる。これらのカテゴリは、これ以上の急速なEC化を見込みにくい成熟段階に入っている。

一方で物販最大カテゴリである食品・飲料・酒類はEC化率4.52%にとどまる。生鮮や日用食品は実店舗での購入が根強く、市場規模が3兆円を超える大きさゆえEC化の余地は大きいものの、物流コストや鮮度管理、配送網といった構造的な壁が伸びを抑えている。

高EC化率カテゴリは成熟して伸び代が縮み、低EC化率カテゴリは構造的な制約で急拡大しにくい。この両面の壁が物販系全体の鈍化につながっている。今回の3.7%増は一時的な踊り場というより、物販EC市場が一定の成熟段階に達したことを示すサインと捉えるのが妥当だろう。

物販系 主要カテゴリの市場規模・成長率・EC化率(2024年)

物販系の主要カテゴリ別データ。EC化率が高いカテゴリほど成長が鈍く、低いカテゴリは規模が大きくても伸びにくい構図が見える。

カテゴリ 市場規模 前年比 EC化率
食品・飲料・酒類 3兆1163億円 +6.36% 4.52%
衣類・服装雑貨等 2兆7980億円 +4.74% 23.38%
生活家電・AV機器・PC等 2兆7443億円 +2.26% 43.03%
書籍・映像・音楽ソフト 1兆8708億円 -0.84% 56.45%
物販系全体 15兆2194億円 +3.70% 9.78%

事業会社のマーケ担当は、この変化をどう読むか

成長エンジンの移行は、施策の重心の置き方に示唆を与える。物販単体で前年比3.7%の市場成長に乗ろうとしても、得られる追い風は限定的だ。市場平均の5.1%を上回る成長を狙うなら、モノを売り切る発想に加えて、サービス的な価値をどう付与するかが現実的な選択肢として浮かび上がってくる。

具体的には、商品販売に予約・サブスクリプション・保守やサポートといった継続的な接点を組み合わせ、単発の物販を反復取引に変える設計が考えられる。サービス系の伸びは、顧客が「手続き」や「体験」のオンライン化に抵抗を持たなくなったことの裏返しでもある。

また自社カテゴリのEC化率を出発点に戦略を立てる視点も有効だ。EC化率が高い領域では価格や配送スピードでの差別化が限界に近づくため、ブランドや付帯サービスでの優位づくりが問われる。逆にEC化率が低い領域は、購買のハードル自体を下げる体験設計に投資余地がある。

ただし旅行や金融の二桁成長には、需要回復という外部要因に支えられた面もある点には注意が必要だ。自社の成長を市場全体の追い風と切り分け、どの要因が来期以降も再現可能かを冷静に見極めることが、市場の好調さに引きずられた過大な計画を避けるうえで重要になる。

まとめ──26兆円市場の「次の主役」を見据える

2024年のBtoC-EC市場は26兆1225億円へと拡大したが、その成長を実質的に支えたのは物販ではなくサービス系だった。物販系3.7%増に対しサービス系は9.43%増、なかでも旅行サービスが10.32%増と全体を牽引し、市場の成長エンジンがモノからサービスへ移りつつある構図が数字に表れた。

物販のEC化率が9.78%にとどまり主要カテゴリが成熟していく一方で、サービスや体験のオンライン化にはまだ余地が残されている。市場の量を支える物販と、伸びを生み出すサービスという二層構造が、当面の日本のBtoC-EC市場を特徴づけていくことになりそうだ。

事業会社にとっての論点は、自社の提供価値を「モノを売り切る」だけにとどめるか、予約・契約・継続支援といったサービス的な価値の領域へ広げていくかにある。成長エンジンの移行は、まさにその選択を事業会社のマーケティング担当に突きつけていると言える。モノを起点にしつつサービスへ接続する設計が、これからの問いになる。

次回以降の調査でサービス系の勢いが続くのか、それとも物販が新たな成熟カテゴリの開拓で再加速するのか。26兆円市場の内訳の変化は、自社の戦略が置く前提を点検するうえで、また次の成長余地を探るうえで、今後も継続して注視に値する指標であり続けるだろう。

実務で確認するチェックリスト

  • 自社の属する商品・サービスカテゴリのEC化率を確認し、市場の成熟度合いを把握する
  • 物販単体の販売だけでなく、予約・サブスク・保守など継続的な取引に転換できる接点を洗い出す
  • サービス系(旅行・金融など)の二桁成長が、需要回復という一時要因か構造変化かを切り分ける
  • 高EC化率カテゴリでは価格・配送以外の差別化要素(ブランド・付帯サービス)を検討する
  • 低EC化率カテゴリでは購買ハードルを下げる体験設計への投資余地を評価する
  • 市場全体の伸び率(5.1%)と自社カテゴリの伸び率を比較し、追い風の有無を見極める
  • 経産省の次回調査の公表時期を把握し、分野別内訳の変化を継続的にモニタリングする

よくある質問

2024年の日本のBtoC-EC市場規模はいくらですか。

経済産業省が2025年8月に公表した令和6年度調査によると、2024年のBtoC-EC市場規模は26兆1225億円で、前年比5.1%増でした。物販系・サービス系・デジタル系の3分野の合計値です。

なぜサービス系が物販系より伸びているのですか。

サービス系は前年比9.43%増で、物販系の3.7%増を大きく上回りました。コロナ禍で落ち込んだ旅行需要の回復(旅行サービスは10.32%増)に加え、金融など手続き型の消費がオンラインへ移る流れが続いていることが要因です。

物販系のEC化率はどの程度ですか。

2024年の物販系全体のEC化率は9.78%で、前年から0.40ポイントの上昇にとどまりました。書籍は56.45%、生活家電は43.03%と高い一方、最大カテゴリの食品・飲料・酒類は4.52%と低く、カテゴリ間の差が大きいのが特徴です。

このデータの出典はどこですか。

経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)が一次情報です。本稿の数値は同調査および、それを報じたnippon.comやネットショップ担当者フォーラムなどの報道で裏取りしています。